ニューロダイバーシティ
ニューロダイバーシティ(neurodiversity)とは、neuro(脳・神経)とdiversity(多様性)をという2つの言葉をつないだ「神経多様性」を意味する合成語。脳や神経、それに由来する個人レベルでのさまざまな特性の違いを、多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で活かしていこうという考え方です。自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、学習障害 など、発達障害とされる症状を、能力の欠如と判断するのではなく「人間の一つの特性」としてとらえる概念でもあります。
ニューロダイバーシティは、障害者を対象とした福祉雇用対策にとどまるものではありません。社会的に健常者(定型発達者)として認識されている人も含め、全ての人にある「脳の個性(=発達特性)」を理解し、働きにくさを解消し、一人ひとりの可能性を活かしていこうというマネジメント思想です。
医師から発達障害として診断が出て、障害者手帳を持っている人だけに発達特性があるわけではありません。障害者雇用枠ではなく一般枠で就労している人(上図の(2)~(6))の中にも、発達特性による働きにくさを感じている人がいると考えられますが、本人が無自覚な場合もあれば、自覚していても自己開示できない場合もあります。働きにくさ緩和のため合理的配慮がなされるには、本人の自己理解にくわえ、自己開示しても大丈夫と思える周囲の理解が不可欠です。
オフィスワーカーの約5%は、発達障害に見られる特性をもつグレーゾーンに該当する
武田薬品工業株式会社が「日本橋ニューロダイバーシティプロジェクト」の一環として実施した調査によれば、発達障害の診断を受けていないオフィスワーカー2500人の中で、ASD、ADHD、LDの三つの発達障害の特性に対して一つでも「よく当てはまる、または頻繁に指摘されたことがある」と回答した人が125人(約5%)いた。
20人に1人が、診断はないものの発達障害に見られる特性をもつグレーゾーンだとすると、ニューロダイバーシティは、一部の障害者雇用担当者だけが考えればよい問題ではなく、大抵の職場において、既に一緒に働いている仲間同士で考慮すべきテーマなのです。
発達障害者の人数は、定型発達者との対比において圧倒的マイノリティです。マジョリティもマイノリティも、お互いの多様性を理解し合えるのが理想ですが、往々にして、マジョリティのやり方が正しく、マイノリティーが間違っていると判断されがちです。発達障害者が職場で直面する困難の多くは、マジョリティである定型発達者のコミュニケーションの仕方が、マイノリティの発達特性と相性が悪いことに起因します。逆に言えば、マジョリティ側が一人ひとり異なる発達特性に応じた配慮ができれば、マイノリティの機能制約は”障害”ではなくなります。
ニューロダイバーシティの考え方が浸透した職場では、マジョリティ側の常識から発想の転換がはかられ、マネジメントの進化が促されます。